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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)36号 判決

東京都品川区豊町六丁目二番一号

控訴人

塚本房雄

同都同区中延一丁目一番五号

被控訴人

荏原税務署長

右指定代理人

伴義聖

佐々木宏中

永田八八

富田達蔵

右当事者間の所得税課税決定取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。控訴人の昭和三八年度分所得税について、被控訴人が昭和四〇年二月一五日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定をいずれ取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴指定代理人は主文同旨の判決をそれぞれ求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の陳述、並びに証拠の提出、援用、認否は、控訴人において新たに甲第三〇号証の一ないし五、第三一号証、第三二号証の一、二を提出し、被控訴指定代理人において、右のうち甲第三一号証の成立、同第三二号証の二の原本の存在並びにその成立はいずれも知らない。その余の右甲号証の成立をいずれも認めると述べたほかは原判決の事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

理由

一、控訴人が昭和三九年三月一六日品川税務署長(昭和四〇年七月一日税務署の管轄区域の変更により被控訴人が権限承継)に対し控訴人の昭和三八年分の所得税について総所得金額(ただし事業所得のみ)を一一万八、五一六円所得税額を零とする確定申告書を提出したところ、右税務署長が昭和四〇年二月一五日附をもって、控訴人の総所得金額を一、七三万三、一一六円(事業所得一、七一万四、五一六円、一時所得一万八、六〇〇円)所得税額を二九万九、五九〇円とする更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税を一万四、九五〇円とする賦課決定処分(本件賦課決定)をしたこと。及び控訴人が右各処分につき昭和四〇年三月三日品川税務署長に対し異議の申立をしたところ同年五月二七日附をもってその棄却決定がなされたので、同年六月一七日東京国税局長に対し審査請求をしたところ同局長が本件更正処分のうち一時所得一万八、六〇〇円の部分のみを取消し総所得金額を一七一万四、五一六円、所得税額を二九万四、〇一〇円過少申告加算税額を一万四、七〇〇円とする裁決をなし、昭和四一年二月一八日控訴人が右裁決書謄本の送達を受けたことは当事者間に争いがない。

二、控訴人が、もと東京都太田区千束町五三九番地所在の建物において洋服仕立業を営んでいたころ、いわゆる環状七号線道路の設置のため右建物敷地が買収されたことに伴い、右店舗を他に移転することとなり、その損失補償として昭和三八年中に訴外東京都から営業補償金一五九万六、〇〇〇円を含む合計六〇〇万五三七円の金員の支払いを受けたことは当事者間に争いのないところ、被控訴人は、右営業補償金の金額が所得(事業所得)の収入金額に代る性質を有する。(昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法第九条第一項第四号)と主張するのに対し、控訴人は、右補償金は都の形式的な補償様目の内訳にすぎず営業補償の実質を有するものではなく、さらに右補償金のうち得意喪失補償金とされる金七〇万九、〇〇〇円は譲渡所得を構成すると主張するので検討するに、当裁判所は、右店舗移転に関し控訴人と都との間に行われた補償交渉の経緯並びに補償金額算定の基準とされた都の「補償基準要綱」の内容及び趣旨に照らして、控訴人が都から支払いを受けた右得意喪失補償金を含む右営業補償金は、その全額が控訴人の事業の収益の補償として支払われたもので事業所得として収入に代る性質を有する所得に当たるものと判断する。その理由の詳細は原判決一七枚目表五行目から同二四枚目裏六行目までの理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

ところで、右営業補償金のうち固定経費補償金三万四〇〇〇円及び休業手当補償金一四万四〇〇〇円については、控訴人が右補償の目的に従って現実にこれを支出に充てた場合には、その支出分は当然に必要経費として所得算出上収入金額から控除すべきものであるが、原審での控訴本人尋問(第一、二回)の結果及び弁論の全趣旨によると、控訴人は昭和三八年中においては、すでに申告ずみの確定申告書に記載した必要経費を超えて右補償目的に従った支出をしたことはないことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。そうすると、右営業補償金の全額が控訴人の同年中の事業所得に当たるものとして所得計算すべきこととなる。

そして、控訴人は同年分の所得申告において事業所得を金一一万八五一六円とする確定申告書を所轄税務署に提出していることは当事者間に争いのないところ、前掲証拠によると、控訴人には同年中に右申告所得額相当の事業所得があり、しかもこれには前示営業補償金は全く算入されていないこと及び控訴人は右補償金分については所得申告をしていないことが認められるから、結局控訴人の同年分の事業所得は右両者の合計金一七一万四五一六円あったものといわなければならない。

そうすると、控訴人の昭和三八年分事業所得が金一七一万四五一六円あったとしてなされた本件更正処分及び過少申告となる前示事業所得にかかる過少申告加算税賦課処分(ただし、いずれも東京国税局長の裁決によって一部減額されたもの。)はともに適法というべきであるから、これらが違法であるとする控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく棄却を免がれない。

三、よって、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は正当であって、本件控訴はすべて理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 古川純一 裁判官 岩佐善已)

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